「とりあえずこのワーク3周しよか」の本当の意味
「とりあえずこのワーク、3周しよか。」
一見するとよくある勉強法のアドバイスのように聞こえるこの言葉。塾でも学校でも、ごく自然に交わされる会話ですし、実際に「ワークは何周もしたほうがいい」と言われたことのある生徒も多いはずです。
しかし、ここに落とし穴があります。
「3回やれば成績が上がる」という考え方そのものが、思考停止になってしまっているケースが少なくないのです。
たとえば、こんな生徒がいました。
彼は理科のワークを丁寧に3周しました。ノートも色分けして、赤や青のペンでしっかりまとめているように見えます。でも、いざテストになると、記述問題で「何を書いていいかわからない」と手が止まってしまう。選択問題でも、用語は覚えているのに間違いが目立つ。
彼の勉強の様子をよく見てみると、「答えを覚えているだけ」で、なぜそうなるのかという理由や背景を考えていなかったのです。つまり、1周目も2周目も3周目も、やっていることが本質的には変わっていなかった。
「3回やること」が目的になってしまっていたのです。
質の高い1周は、質の低い3周に勝る
逆に、ある女子生徒は英語のワークを1回しかやっていませんでした。でもその1回で、間違えた問題はすべてノートに書き写し、「なぜその答えになるのか」「自分はなぜ間違えたのか」をじっくり分析していました。
さらに、似たような英文が出てきたときに、文法のルールに基づいて正解を導けるように自分なりの説明ができていたのです。
このように、たった1周でも内容の理解が深ければ、次に同じパターンの問題が出たときにしっかり解けるようになります。逆に、ただ流すように繰り返しただけでは、何周しても「知識の上塗り」にしかなりません。
なぜ「3周」がよく言われるのか
では、なぜ「3周しよう」とよく言われるのでしょうか。これは「予習・本番・復習」という学習サイクルが背景にあると考えられます。
- 1周目(予習):まずは内容をざっと掴む。わからないところを洗い出す。
- 2周目(定着):間違えた問題や苦手な部分に集中して取り組む。
- 3周目(復習):理解できたかを確認し、応用できるかを試す。
このサイクルがうまく回っているなら、たしかに3周する意味はあります。
でも、「ただ同じ問題を3回解いた」だけでは、意味がありません。
大事なのは、「何をできるようになったか」
たとえば、社会のワークを3回やって、用語は全部覚えた。ところが、実際のテストでは資料の読み取り問題や記述問題が解けなかった。こういうケースもよくあります。
これは、「ワークで問われている形式」と「テストで問われる形式」が違うことに気づいていなかったパターンです。つまり、ワークを通じて何をできるようになったのかを確認しないまま終わってしまっていたのです。
本当に大切なのは、ワークをやった「その先」にどんな力が身についているか。
- 似た問題に応用できるか
- 自力で説明できるか
- 初見の問いに対して、考え方を転用できるか
こういったことを意識しながら勉強しているかどうかで、成果はまるで違ってきます。
回数にこだわらず、「できるようになるまでやる」
だから、「何周したか」よりも「できるようになったか」を基準にすることが大切です。目安として3周は悪くありませんが、それにこだわりすぎると、ただの作業になってしまいます。
「同じ問題を間違えたとき、自分で違和感を感じるようになる」
「前はできなかった問題が、今ならスラスラ解けるようになっている」
そんな実感が持てるようになるまで、内容の質にこだわった反復をしていくことこそが、本当の意味での「周回」なのです。
最後に
周回の目的は、ただ数をこなすことではありません。
「知識を深め、考える力をつけ、実力として使える状態にする」ことがゴールです。
だから、もしあなたがこれからワークに取り組むなら、こう自分に問いかけてみてください。
「この1周で、自分は何をできるようになったのか?」
その問いに明確に答えられるようになったとき、成績はきっと自然とついてくるはずです。